おしゃれに関心がない人にも及ぶ流行の影響について

ファッション

大人おしゃれ塾、田中です。

世の中には様々な価値観があります。おしゃれについても、おしゃれであることが正しいとか、おしゃれに興味がないのは正しくないとかの判断は適切でありません。

その人その人の趣味や嗜好、考え方の問題ですから。

ただ、自分はファッションには興味がない、無縁だという方でも、自分か気付かないうちに影響を受けているということはあります。

今日はそんなお話です。少し長くなりますがお付き合いいただけるとうれしいです。

ノームコア

濃紺のハイネックTシャツにジーンズ、スニーカー、といえばスティーブ・ジョブスのファッションですね。

ジョブスがどんな場面でも一貫してこのスタイルを通したきっかけは、ソニーの厚木工場視察だそうです。

従業員がみな同じ服を着ているのに目がとまり、ジョブスはソニー創業者の盛田昭夫氏に「なぜみな同じ服装をしているのですか」と尋ねました。

すると盛田さんは「第二次世界大戦後のモノがなく貧しい時代、社員のために服を支給をした。それが現在でも会社と従業員を繋ぐ役割を果たしている」と答えたそうです。

ジョブスもアップ社で制服を採用しようとしましたが、社員の猛反対にあい、自分一人が制服で通すことにしたそうです。

このような考え方や思想は、一つの価値観として認知されるようになり、いつどんな時も一貫して同じ服装で通すスタイルを「ノームコア」と呼ぶようになりました。

ノームコアとは、ノーマルとハードコアを掛け合わせた造語で「究極の普通」という意味です。

そんなジョブスのファッションですが、濃紺のハイネックTシャツは三宅一生のデザインです。ジーンズはリーバイスの501、スニーカーはニューバランスの991です。

「何でもいい」というわけではなく、今という時代における「究極のベーシック」を選んでいます。

ベーシックとはトレンドとの対比から生じる概念で、その意味においては、ジョブスのファッションはトレンドの存在があるが故に成立していることになります。

オーバーサイズの浸透

ベーシックといえば、㈱ファーストリテイリングのユニクロ、世界のカジュアルの企業の中での売り上げは第3位という世界規模の企業ですね。

誰もがその存在を知り、店舗やオンラインで購入されている方も多いことでしょう。

そのユニクロが、2015年10月、ユニクロが、フランスのデザイナー、クリストフ・ルメールとコラボして「UNIQLO AND LEMAIRE/ユニクロアンドルメール」を発表しました。

ルメールはその前までエルメスのデザイナーをつとめていましたから、コラボ商品への期待感は半端なかったです。私も勉強のためと好きなのとで結構買いました。

こちらがその中の1枚。コンバーティブルカラー(身頃の一番上のボタンを留めても外しても使える襟の総称)のシャツです。身幅がゆったりしていて、肩もドロップしています。

この身幅のゆったり加減に、2015年当時は、少し抵抗があったのを覚えています。

「UNIQLO AND LEMAIRE/ユニクロアンドルメール」は翌年から、クリストフ・ルメールをアーティスティックディレクターとした「UNIQLOU/ユニクロユー」に引き継がれ、製品のオーバーサイズ感はさらに増していきました。

この現象はユニクロユーだけはなく、世の中のファッションの志向とも一致しています。

私たちの感覚が次第にこのサイズ感を受け入れ、慣れてくるということです。

5年前には違和感があったはず七生に、私が今シーズン私が購入したトップスは、身幅(仕上がりサイズ)が132㎝もありました。

今、店頭に並んでいる商品は、オーバーサイズなデザイン展開になっているということです。好むと好まざるにかかわらず。

サイドから見たのがこちら。後ろ下がりになっていて丈方向にもボリュームがあります。

こんなふうに、流行が消費者に浸透する過程、時間の経過は興味深いですね。

知らずに受ける流行の影響

次に、知らずに流行の影響を受けた服を着ている、といった現象についてお話しさせてください。

文化短大で「衣生活論」を担当していた時、『プラダを着た悪魔』という映画(2006年)の一場面を紹介しながら、説明していました。

この映画で私が一番好きなシーンでもあります笑。

ファッション雑誌『ランウェイ』の鬼編集長ミランダが、ファッションを軽く見ている新米秘書アンディに向かって語る場面。(語るというより吐いたと言った方が良いくらいの迫力です)

場面説明

ミランダ(鬼編集長)と社員たちが(雑誌に載せる)ベルト2つ、どちらがいいか検討している場面で、それを見ていたアンディが思わず失笑。

ミランダ「なにかおかしい?」

アンディ「2つのベルトの青色の違いが分からない。“こんなの”はじめてで。」

ミランダ「“こんなの”ですって? あなたは家のクローゼットからその冴えない“ブルー”のセーターを選んだ。しかし、知らないでしょうけど、それはブルーじゃない。ターコイズでもラピスでもない、セルリアンよ。」

と言って続けます・・・

「そのセルリアンは8人のデザイナーのコレクションに登場してから、ブームになった。そして、そのトレンドはデパート、安いカジュアル服にも反映され、あなたがバーゲンで買った。この“ブルー”は巨大市場と無数の労働の象徴よ。滑稽ね。“ファッションと無関係”とあなたが思ったセーターは、“こんなの”の山から私たちが選んだのよ。」

というシーンなのですが、これこそが流行の成り立ちです。

私たちは流行のルーツを知らないままに、流行の影響を受けているというわけですね。

自分が今日買った服は、自分が知らなくても、その時々のトレンド(流行)が反映されているということです。面白いですね。